予防鍼灸研究会 広報委員長 後閑美樹子
第一部では、刺さない鍼を主に用いて治療されておられる、東京都豊島区要町の鍼灸和友堂の一ノ瀬宏先生にご登壇頂き銀のてい鍼による「刺さない鍼の治療」の実技を見せて頂きました。
着衣の上から、ほとんど触れるか触れないかのとても精妙な手技を見せて頂いた後に、施術を受けた方の感想をお聞きしました。
手技を受けている間、押圧されているような感触はほとんどなかったにも関わらず、一ノ瀬先生の手はとても温かく、氣の流れのようなものを終始感じておられた、というのです。
一ノ瀬先生はなぜ、刺さない鍼治療をされるに至ったのか?
そのような「氣流れる手」をどのようにお作りになったのか?
例会後にお電話にて追加取材をさせて頂きました。
●顔面神経麻痺を治してしまう電気鍼に衝撃をうけて鍼灸師の道へ
一ノ瀬先生は長崎県のご出身。
理科の先生になるべく東京の大学に進学したものの、
ご卒業当時1975年は大学紛争真っ盛り。長崎県の教職員採用試験の倍率はなんと600倍。
あえなく不採用となった時、銭湯で知り合った先輩のご紹介で街の小さな診療所でのアルバイトを始めました。
西洋医学の医師が、顔面神経麻痺の患者さんの顔面に鍼をし、通電することで患者さんの痛みがみるみる軽くなっていくのを日常的に見て、鍼の世界へと誘われます。大学卒業の翌年、一ノ瀬先生は鍼灸専門学校に入学されたそうです。
今のかなりソフトな刺激量の治療とは真逆の、深く刺して電気もバンバン流す治療をされていた先生。
●癌末期の患者様が鍼通電で悪化
そんなある日。
癌末期の患者さんの治療に携わることになった一ノ瀬先生に転機が訪れます。
明日の命をも知れぬほど具合の悪い癌の末期である患者様にいつもの通電治療を施した翌日。患者様をお訪ねすると、前日から更に更に悪化してしまっていたのです。弱っている患者様への明らかなドーゼオーバーでした。
この経験が深刺しからの通電治療という今まで行ってきたご自分の治療法を反省し、見直すきっかけになったのでした。
●布団の上からかざした手が感知したもの
また、師匠にあたる恩師がいくつもの癌を併発し、苦しみの床にある時、こんなこともありました。
寒がって分厚い布団をかぶって寝ておられる恩師の、その布団の上30センチも上から一ノ瀬先生がふと手をかざして、足先から膝へと手をゆっくり動かしていると、ふと陰陵泉のところで手が自然に止まってしまった(その頃すでに、一ノ瀬先生の手はかなり繊細な
ものを感じ取れる感受性を見につけておられたのでしょうね)。
すると、恩師は一ノ瀬さんにこう告げられたのだそうです。
「一ノ瀬君。今の手技はとても気持ちが良かった…」と。
布団の上から30センチ離れた距離からかざした手に、患者さんが「気持ち良い」と感じさせる何かがある。
30センチ離れた距離から患者さんの下肢に澱む邪?を感知することができる手の不思議。
二つの出来事が転機となり、一ノ瀬先生は自作の通電機を捨ててしまったそうです。
深刺し、通電。
人を治すのにそんなに強い刺激はいらないのではないか?
その時、一ノ瀬先生は37歳になられていたそうです。
まだまだお話を伺っていたかったですがご多忙の一ノ瀬先生をこれ以上お引き留めするわけにもいかず、、、
追加取材はここまでとなりました。
一ノ瀬先生の刺さない鍼治療にご興味おありの先生方はぜひ、豊島
区要町の鍼灸和友堂で治療を受けてみてください!